大正期の一時期、喜多方を中心としたこの地方に訪れる文化人たちを支援し芸術の普及に努めた『喜多方美術倶楽部』。結成から100年の節目に当たる2018年、同倶楽部の活動をあらためて振り返る展覧会「喜多方美術倶楽部と大正浪漫展Ⅲ 結成から100年」(9/22〜11/4)を開催しました。本企画展のテーマは「喜多方の文化力」として、これまで紹介してきた作品を含め、時代背景や活動内容を振り返る内容を目指しました。市内の個人所蔵者にもご協力頂き、前期・後期に分けて多くの作品や資料を展示しました。本展をきっかけに発見や発展もあり、今後も引き続き調査・研究を進め、皆様にご紹介することができればと思います。

 本稿では、関連企画として実施した、「記念事業」、「ワークショップ」、「講演会」の中から「講演会」について記録を掲載いたします。

■講演「喜多方美術倶楽部- 大正時代と現代」
11月4日(日)15:30〜18:00
場所 大和川酒蔵北方風土館昭和蔵
参加者 33名

第1部 『福島県内の美術をめぐる動き−大正時代』

第一部では、「福島県内の美術をめぐる動き−大正時代」と題して、福島県立美術館学芸員の増渕鏡子氏にご講演いただきました。
大正期、当時の画家が会津地方を訪れるようになった時代的・経済的背景を、明治後期から昭和初期にかけての県内の美術の動きや画家の活動を支えた人々について関連する画像と共に紹介していただきました。
県内各地を画家が訪れ、画会や句会などで地域の人々と交友が生まれた社会背景には、鉄道やメディアの普及により、人々の往来や物流が増加したことが挙げられます。増渕氏は、県内でどのように美術が生まれはぐくまれたのか、どんな美術家が来県し地元の人や自然と触れ合ったのかなどを紹介し、「地方の文化風土こそが美術を生み出す力になっていることが各事例から理解される。その中で大正時代の多様な美術運動を支えたのは地方であるかもしれない」と、締めくくりました。
一地方都市の喜多方に今も多くの芸術作品が残されていること、当館が設立した背景には先人が積み重ねてきた文化・芸術への思いがあることを改めて実感しました。

第2部 『アーティストをとおしてみる喜多方』

第二部では、画家の久松知子氏と福島県立博物館学芸課長の川延安直氏にご講演いただきました。
久松氏は、2013年の「喜多方・夢・アートプロジェクト2013」において、初めて個人のアーティストとして喜多方で滞在制作を実施。その後、「喜多方美術倶楽部」を題材とした作品も手がけています。近年、作家として活躍の場を広げる中、喜多方での再度のレジデンス招聘に応じてくださいました。
川延氏との対談では、喜多方とアーティストとのこれからの関係性や可能性がテーマとなりました。久松氏は、今回の滞在を通して感じた“大きなプロジェクトの区切りを迎えた喜多方がこれからどういう方向に舵を切っていくのか”ということへの不安と期待を表明し、「喜多方がアーティストにとって最前線のアートと向き合う場所ではなくても、芸術に寛容な土地柄だからこその受け入れ方があるはず」と提言。川延氏からは、美術館や行政、民間で発足した新北方美術倶楽部などが連携してアーティストを受け入れ、地域とつなげていく喜多方モデルが提案されるなど、場内を交えて様々な意見が交わされました。

一部、二部を通して、過去から現代、そして未来の喜多方とアートを考える場ともなった講演会でした。
関連企画の「記念事業」や「ワークショップ」においても、様々な角度からこれからの文化・芸術への取り組みについて課題を見出す機会となりました。合わせて活動報告をご覧ください。

> 喜多方美術倶楽部と大正浪漫展Ⅲ 記念事業 〜 活動報告