久松知子(アーティスト)

1991年三重県生まれ。山形県在住。画家。現在、東北芸術工科大学大学院博士課程在学中。「喜多方・夢・アートプロジェクト2013/アート暮らし」、「新・北方美術倶楽部~喜多方で学ぶ北の魅力~」に参加した他、チュートリアル「東北画は可能か?」としても喜多方で展覧会を開催(2015)。2015年第7回絹谷幸二賞奨励賞、第18回岡本太郎現代芸術賞岡本敏子賞受賞。2018年大原美術館によるアーティストのレジデンスプログラム「ARKO2018」に招聘される。

概要

2014年度に喜多方で滞在制作した作品《喜多方美術倶楽部の絵》の再展示に合わせ、新たなリサーチの結果を報告しました。具体的なリサーチ活動としては、2013年以降のこの地域での芸術活動についてアーティストの視点から振り返り、11月4日の講演会を通して、今後の方向性についての討議を行うこととなりました。また約100年前に制作された喜多方を訪れた画家たちによる絵巻物作品を素材としたワークショップを滞在期間中に開催し、かつての美術作品の魅力を再発見することを試みました。
<喜多方美術倶楽部と大正浪漫展Ⅲ 記念事業>

アーティスト イン レジデンス

滞在先:新金忠(喜多方市字南町2854)母屋
滞在日:9月18日(火)、19日(水)、20日(木)、22日(土)、23日(日)、24日(月)、29日(土)、30日(日)、10月3日(水)、7日(日)、8日(月)、16日(火)、23日(火)、11月1日(木)、2日(金)、3日(土)、4日(日)、5日(月) ※計18日間

活動内容

ワークショップの事前準備
  • 9月18日(火)ワークショップ打ち合わせ
  • 9月23日(日)ワークショップ試作(協力:カマクラ図工室教員、金澤文利)
  • 9月29日(土)ワークショップ試作(協力:空のある教室)
  • 9月30日(日)ワークショップ試作(協力:筑波大学宮原研究室)
  • 10月3日(水)ワークショップ試作(協力:喜多方市美術館)

リサーチ活動

地域の方とのお茶のみや対話の中から、喜多方でのアートに関わる皆さんの考えや動きを聞き、考察した。

  • 10月16日(火)
    楚々木集落を訪問 終了したアートプロジェクトの資材整理をお手伝い

懇親会企画

11月4日(日)18時30分〜 参加者22名
新北方美術倶楽部との共催として、地域の方との懇親会を企画。
今後の喜多方における芸術活動について語り合いました。

ワークショップ「空想の喜多方旅日記をつくろう!」

約100年前に喜多方に訪れた画家が描いた旅の絵日記を素材に、空想の旅の1場面をつくり、グループで一つの物語として繋げ、鑑賞しました。大正期に喜多方で発足した『喜多方美術倶楽部』は、会津に来遊した芸術家たちを歓待し、画会や頒布会を開きました。そのため、この地方の人々はすぐれた芸術に接する機会に恵まれ、多くの作品が喜多方に遺されています。ワークショップではそれらの中から、喜多方を訪れた芸術家の滞在や旅をユーモラスな絵と文で表した絵日記作品に着目し、その歴史や作品鑑賞を、ものつくりを通して深めることを目的としました。

日 時:2018年10月8日(月・祝) 13時~16時
場 所:喜多方プラザ第一会議室
講 師:久松 知子(アーティスト)、川合 南菜子(アーティスト)
参加費:無料
参加者:5名

■ 内容

4〜5人で1本の絵巻をつくります。ひとり一場面、新鳥の子紙に描きます。絵巻の主人公は「ちかめ」さん。喜多方に旅してきた画家のようです。「喜多方美術倶楽部と大正浪漫展Ⅲ」に出品されている、小川千甕《二人旅の巻》、近藤浩一路《山都絵日記》、酒井三良《野澤絵日記》の3作品を素材にしたコラージュと水彩絵の具による彩色で場面を描きます。絵が完成したら、どのような場面を描いたのか作者以外の人が自由に話します。作者には最後に意図を聞いてみます。各場面が出揃ったら並べ順を入れ替えて、ちかめさんの旅の物語をつくります。

■ 手順

  • イントロダクション【15分】(説明、自己紹介など)
  • 制作(1)—コラージュなどで絵作り【30分】
  • 鑑賞・物語作り【20分】
  • 制作(2)—セリフづくり【10分】
  • 過去の絵巻作品の鑑賞【15分】

■ 参加者体験記 <一部紹介>

  • 出来上がった作品を本人以外の人で読み解くことが新鮮だった。
  • 実在する作品部分を複製し素材に使ったので、後の美術館での鑑賞で興味を持てた。
  • バラバラな絵を一つの物語につなげるのが難しかった。

ワークショップのまとめ

わたしにとっては初めてのワークショップの講師を務めることになり、新たなことに挑戦する機会を頂け、感謝申し上げます。また、コラージュ素材として参照した絵巻作品の所蔵者の方への作品使用の許諾、制作準備のための画材の提供、試作のための協力者への交渉・場所の提供など、美術館の皆様に多くのご協力を頂き、実現することができました。反省点は、参加申し込みが少なかった点がありました。ワークショップの内容が難しかったことや広報が行き届かなかったことが一因だと考えています。ただ、それは人数が少なかったことを問題と捉えるよりも、ワークショップ開催の目的、対象の設定の吟味が不足していたのではないかとも考察しています。チャレンジングな内容のワークショップに取り組めたことには意義があり、今後も内容をブラッシュアップできる可能性も感じました。

展覧会 久松知子「Return 喜多方美術倶楽部の絵」

日 時:2018年11月3日(土)10時~16時、4日(日)10時~20時
会 場:大和川酒蔵北方風土館天空回廊(喜多方市寺町4761)
観覧料:無料
来場数:約50人

展示内容

[1]《会津ストリートビュー feat. 森田恒友》(2014)
 《喜多方美術倶楽部の絵》シリーズの作品。

 森田恒友の作品《日本風景版画第2集 会津之部》(1917年)を題材とした作品。
 2014年の滞在制作作品。

[2] リサーチの成果報告(2018)

 ワークショップで制作した成果物、記録パネル。

[3] 《喜多方酒樽絵画》(2013)

 2013年に実施された「喜多方・夢・アートプロジェクト」で制作した作品。
 喜多方市内にある9軒の酒蔵に独自に取材をし、制作した作品の中から3点を展示。

[4] その他の関連する小作品、ドローイングなど

アーティスト報告

滞在の前半は、主にワークショップの準備に費やされました。その際に、中心的にご担当頂いた美術館のスタッフの方々とはじっくり対話をする機会も得られたことで、喜多方という地域での芸術活動の過去と現代の実践はどのように未来に繋げられていくのだろうか?という問いが生まれました。展覧会は、これまでの喜多方での滞在制作活動を振り返る内容となり、100年の記念展と呼応するように、現代の喜多方に関わった作家の一人として一つの区切りを感じる展示内容となりました。講演会では福島県立博物館の川延安直氏に聞き手としてお越しいただき、以上の問いについての実践的な問題提起を共有できたように感じています。質疑応答では市民の皆さんの活発な発言も伺うことができ、実りのある議論になりました。喜多方には100年前からの歴史と、現代での芸術祭・アートプロジェクト事業の蓄積がすでにあります。今回のレジデンスを通じて、この地域での芸術文化活動が新しいフェーズに移行していく予感がしています。発見した課題や生まれた成果が未来に繋げられていくことを楽しみにしています。

11月4日 講演会第二部会場風景